2:祈りの王女

 ミコとルビーが長い廊下を歩く間、出会ったのは、扉の前に立っていた護衛の兵士だけだった。銀色の鎧に身を包んだ兵士は、ミコよりも大きく、つまることろ、普通の大人と変わらない背丈だったので、彼女は少し安心する。こびとの国に来てしまったのかと思ったのだ。
(ルビーさんだけが、小さいのかな……)
 それでも、知らない場所と知らない人に、ミコは身体が堅くなるのを感じていた。
(一体ここはどこなんだろう。なんで、こんなことになっちゃったんだろう)
「姫様ぁ!
 チェンジリングを連れてきたよう!」
 ミコの心とは裏腹に、ルビーのはずんだ声が廊下に響く。音を立てずに、兵士の背丈を超す扉が、ゆっくりと開いた。
 
 その部屋は、今までと同じように真っ白で、無機質で、明るかった。
 先ほどの池があった部屋と違うのは、天井からいくつもの、あふれるような白い布が、あちらにもこちらにも、縦横無尽にたれているところだった。
 そして広い。布で隠れてしまって、正確な大きさはよくわからないが、体育館ほどもあるだろうか。
 高い天井から降り注ぐやわらかい光の中、部屋中に布が広がっている光景は、白い海にも見える。
「ようこそ、チェンジリング……。わたくし、パールと申します。こちらは雷竜のハスケル」
 その海の中にクッションを山のように積み上げ、微笑んで座っていたのは、年の頃は十歳ほどの一人の少女だった。身長より長い銀の髪を無造作に床に広げ、白い着物に似た服を着ている。真っ白い十二単のようだ、といえば近いだろうか。
 その後ろ、布に隠れて一人の男が立っていた。
 彼が雷竜と紹介された、ハスケルなのだろう。二十代後半に見えたが、ミコには良くわからない。身長は高く、二メータはある。がっちりした体型で、金髪を短く刈り込んであった。背の高さのせいか、妙な存在感があり、ミコと目が合うと、無表情のまま、何故か少しだけ頷いた。
「それからルビーも、ご苦労様でした」
 そういって、銀の髪の少女は二人に頭を下げた。
「えへへ、えらい?」
 はい、と優しくパールは微笑んだ。そのルビーはといえば、身長のせいて白い布に半分以上埋もれていた。
 ミコはそれを見て、手助けしようと手を出しかけ、うつむいた。よけいなお節介かも、と思ってしまうと、手が動かなくなってしまうのだ。
 そのあと顔を上げると、思い切って幼い少女に声をかけた。
「あの……」
「はい。なんなりと」
 ミコの問いに、少女が微笑む。
「けれど、立ったままなのは失礼ですね。このようなところで申し訳ありませぬが、どうぞお座り下さいませ」
 そういわれて、ミコはどこに座るのが良いのかと迷った末、床に広がった布の上に、なるべく踏む量が少ないように腰を下ろした。思ったよりも肌触りが柔らかい。
 ルビーを見ると、埋もれた状態から自分で脱出して、天井に続く布によじ登り、ミコの顔辺りの高さに、ハンモックの要領で座り込んでいた。
 ミコと目が合うと、にかっと笑う。つられて、ミコもぎこちない笑みを返した。
 それから、少女に向き直る。人の顔を見て話すのは苦手だが、今はそんなことを言っていられない。
「あの、ここはどこなんですか?
 私、学校にいたはずなんですけど……」
「ここは、わたくしパールの【祈りの間】です。チェンジリングが上がってこられたのは【祈りの泉】と呼ばれる、この白都の中心となる所ですわ」
「でも私、学校にいたんです。池に、ナイフがあって……、その、帰らなきゃ。宿題もやってないんです。お母さんに怒られちゃう。だから、帰らないと……」
 泣きそうになるミコに、少女のほうも眉を寄せて悲しそうな顔をした。
「残念ながら、チェンジリングが再び世界を超えたという話は、聞いたことがありませぬ……」
「チェンジリングって何ですか?
 私、ミコです。そんなのじゃない。お願いだからもう、遊ぶのはやめて下さい。家に帰らないと……わたし……」
 こらえきれずに泣き出したミコに、パールは深々と頭を下げた。ミコの方に手をのばそうとしてクッションの山から身を乗りだし、バランスを崩した。すぐに、後ろから伸びてきたハスケル腕に支えられ、体勢を直す。足が、動かないのだ。
「申し訳ありませぬ、ミコ様」
 姿勢を直し、そして顔を上げると、話し出す。その表情は、ミコが今まで誰の中にも見たことのないほど真剣だった。
「きちんと、ご説明申し上げますね」
 ルビーは心配そうな顔で、二人を交互に見つめていた。
「この世界スクウィークにおいて、チェンジリングというのは、世界を渡る者……、存在の入れ替わりによって、本来は出来ないはずの【世界を越えた者】だと言われております。世界を越えることで不思議な力を手に入れ、そしてその力で、国を、世界を救ってくれる者だと。……ミコ様、どうか、どうか、わたくしどもをお助け下さい」
 いきなりの言葉に驚いて、ミコはしどろもどろになりながらも、返事をした。
「わ、たし、違います。ちぇんじとかいうのじゃない。私、単なる中学生で、それで、その、その……」
 けれど結局言いよどみ、すがるようにミコは、銀の瞳を持つ少女を見つめた。
 全部嘘だ、と言って欲しかった。ちょっとからかっただけなんだと。
 そういって笑って欲しかった。そうしたら大人か、もしくはテレビカメラが出てきたりして、ミコは家に帰れるのだから。
 けれど、その幼い少女は、まじめな顔でゆっくりと首を振るだけだ。
「ミコ様は、チェンジリングなのです。少なくとも、この世界、スクウィークの者ではありませぬ。しかしながら、今こうして世界を渡り、ここにいる。それこそが、チェンジリングの証です」
 そういわれてしまったら、もう反論しようもなく、ミコは唇をかんだ。
 テレビでも見たことのない、輝く銀色の髪の少女。となりで心配そうに見つめる、ルビーの小さな赤い瞳は、ロボットだと思うにはあまりに表情豊かだったから。だからもう、認めるしか無いのかもしれない。
 ミコが幼い頃から読んできた物語のように、他の世界に吸い込まれてしまったことを。
 でも、本の中の主人公はみんな、ミコとは違った。頭が良かったり、運動神経が良かったり、兄弟が四人もいたり、どこか「特別」だから選ばれたのに、それがミコには何もなかった。
(なんで、わたしが……)
 逃げたい、と思ったのが、いけなかったのだろうか。
 あの時だけじゃない。
何度も何度も、現実から逃げて、クラスメイトも母親も、教師もいない世界に行きたいと願ったのが。
 そこまで考えて、ミコはあることに気が付いた。
「あの、パール……さん」
「はい」
 パールは微笑んで答える。
「あの、もしかしてチェンジリングって、世界を救ったりとか、しなくちゃいけないんですか?」
「はい!」
 ぽん、とてのひらを合わせて、無邪気にパールは頷いた。先ほどまでの大人びた顔ではなく、年齢にふさわしい幼い表情だ。
「そんな、……できません……」
 ミコの方は、固い表情で、うつむきながらつぶやいた。
「私は、ただの中学一年生です。逆上がりもできないし、マラソンも遅いし、馬にも乗ったことないです。剣や弓なんて見たこともないです。絶対そんな、世界を救うなんてこと、できません」
「大丈夫ですよ。チェンジリングは、世界をわたることによって、不思議な力が身に付くと言われておりますゆえ」
 そういわれてミコは自分の身体を見回してみた。けれど変わったと思える所は、何もない。
「……水の中で、息が出来るようになったりとか……?」
「祈りの泉なら、誰でもそうです」
 本当に他に思い当たるところは、何もない。
「すみません。私、出来損ないみたいです。いつもそうなんです。……役に立てることなんて、なさそうです」
「ダメよぅ!
 そんなこと言っちゃ!」
 そこでいきなり、口を挟んだのは、ルビーだった。
「アタシはちっちゃいから、この辺ではお皿もないし、朝のジャムに手は届かないし、ドアだって開けられないし、でもね、何かしようとしたら、必ず何かはできるのよぅ。出来ることは誰にだってあるのよう!
 それに言葉は魔法なんだから、出来ないって言ったらそのとおりになるの。でも出来るって言ったら、その通りになるのよう!
 だから、そんなこと言っちゃダメなのよぅ!」
 顔までまっ赤にして、腕を振り回す勢いに、ミコは目をぱちくりさせ、思わず頷いた。
 二十センチの小さな身体なのに、逆らえない何かがあったのだ。
「じゃあ、約束なのよう!」
「あ……、はい……」
 顔を見合わせた二人を、にっこりと、パールが見つめた。
「了承を得ることなく、チェンジリング……いえ、ミコ様をお呼びしたことを、本当に、おわびいたします。けれど、わたくしは、どうしてもそうする必要があったのです。とはいえ、意にそわぬミコ様を、無理に旅へと送り出そうとは思いませぬ。
 祈りを捧げたのは、こちらの勝手ゆえ、説明だけさせていただいて、どうぞ客人として、この白都にご滞在下さいませ」
 そう言って、パールはこちらの世界、スクウィークの話を始めた。
 スクウィークと呼ばれるこの世界には、人間の他にもたくさんの生き物がいる。ルビーのように身体の小さいものや、逆にとても大きいもの、耳の長い森人エルフ、様々な妖精、人型をしていなくとも、言葉を話す種族は数多いそうだ。
 しかし、その中で、最も誇り高く、圧倒的に強大なのが、竜だという。
 竜は、この世界に唯五匹しか存在しない。
 それが、雷竜・地竜・火竜・風竜、そして水竜・スクウィーク。
 それまで単なる伝説としてささやかれていた彼らが、突如世に出てきたのは、千年前。世界に現れた【黒き災い】を倒すためだったと伝えられる。
 黒き災いとは魔女のことだ、とパールは続けた。
 そして世界を滅ぼそうとした【黒き災い】を竜と共に、神槍・グングニルで白都に封じ、乱世を治めた人間がいる。それこそがパールの祖先に当たる、【白き英雄】祖王フォートランなのだという。
 彼により、世を乱し、混沌の元となった魔女は槍で貫かれ、【永劫の夜】と呼ばれる部屋に置かれたのだと。
 以来、竜は白都で魔女の眠りを見張り、その竜の在る白都は世界の中心的な都市となった。直接的な統治ではないものの、竜の圧倒的な力を背景に、この千年、世界は安定していた。
 そう、つい、先日までは……。
「魔女です。この城に封じられていたはずの魔女が、目覚めたのです」
 パールは、くちびるをかみしめて、下を向いた。
「お父様とお母様が死んでから、【正統者】であるお兄さまと、【祈りの王女】であるわたくしは、力を合わせて白都を治めておりました。幼いながらも、わたくしたちは必死で責をこなそうとしてきたのです。
 それなのに、それなのに魔女は、事もあろうにお兄さまを操り、自らの封印である槍を抜かせたのですわ。お兄さまは今も魔女のクグツとして、街や村を襲っています。千年前のように、世界に争いを蒔いているのです。あの、優しいお兄さまが。
 どうか、ミコ様、魔女を再び封じ、お兄さまを、世界を救って下さいませ」
 そう言って、パールは深々と頭を下げた。
 ミコは、そんなパールを見ることも出来ず、視線を落としたまま固まっていた。
 パールの後ろに立ったハスケルは、相変わらず無言のままだ。ルビーだけが、気の毒そうにミコを見つめていた。
「……ねえ、姫様。そんなに急に言われても、ミコだって困るよぅ。考える時間くらい、あげても良いと思うよぅ」
 しばらく経ってから言う。
 その声にはっと気が付いたように、パールは顔を上げた。
「そうですわね。つい……。ミコ様、今部屋を用意させますので、どうかごゆっくりなさいませ。こんな時ですが、よろしければ、白都も見て回って下さい。とても、美しい街ですのよ」
 そう言ってクッションの間から、小さな銀のベルを取り出した。それを揺らすと、涼しげな音が響きゆっくりと奥の扉が開いた。そこから三人の侍女が進んでくる。薄い灰色の服を着た彼女達は、横に並ぶと優雅に一礼をした。口を開いたのは真ん中の女性だ。
「お呼びでしょうか」
「ローゼ。ミコ様…、チェンジリングに、お部屋を用意して差し上げて。整うまでに、城や街を案内してもらってもいいです。失礼の無いように」
 彼女がかしこまりました。と答え、他の者達は、用意のため、来たときと同じように、黙って一礼をして下がっていった。
 一人残った女性は、パールからミコに向かい直り、
「では、こちらにどうぞ、チェンジリング。足元に気を付けて下さいね」
 そういって、ゆっくり歩き始めた。衣ずれの音と一緒に、腰まである茶色の髪がふわふわとゆれている。銀の髪のパールや、急いで付いてきているルビーの赤い髪を見ていたので、ミコは少しだけほっとした。
(本当に、私はもう、家に帰れないんだろうか……)
 そう考えるとまた涙が浮かんできた。
 でも、磨き上げられた、真っ白い廊下を歩いていると、妙に現実感がないのも事実なのだ。まるで長い夢をみているようで……。
 ミコは考える。もしもこれがが夢だとしたら、私は、目が覚めて欲しいんだろうか。欲しくないんだろうか。世界を救うなんて、自分にはけして出来はしない。でも目が覚めて、明日も学校に行くのも嫌だと思ってしまう。
 全体的に色味の薄い城内では、鮮やかな赤のルビーが、とても目立っていた。
「チェンジリング、こちらにどうぞ。ちょっと急な階段になっていますので、足下に気を付けて下さいね」
 優しくほほえんで、先を歩いていた侍女が、右手を差し出した。
 少し迷った末、ミコは手を伸ばした。そっと、出された手を握る。
「さ、ルビーもどうぞ」
 そう言い一旦しゃがんで手を伸ばした彼女の肩に、よいしょっと、ルビーはよじ登った。
「いつも、悪いねえ、ローゼ」
「まあ、どうしたの?
 ルビーがそんなことをいうなんて」
 目を合わせて笑い会う二人は、とても仲が良さそうに見える。
 新学期、すでに仲良しグループを作り上げている子達を眺めるあの感じを思い出して、ぼんやりとミコは二人を見つめた。
「どうしたのぅ、ミコ?」
 と、ルビーが、全く同じ笑顔をミコに向ける。
 どうして、そんな風に笑うことが出来るんだろうと、ミコはまゆをよせた。笑い返してもらえなかったらって、怖くはないんだろうか。
「あら、初めての場所ですもの。不安になって当然よね。ゆっくり、色々なことを知って下さればいいわ」
 ローゼは、優しく声をかけてくれた。安心できる、お姉さんの声だ。ミコがもうずっと聞いていないような、優しい声。きゅっと、つないだ手を、握る。
 階段は長かった。ゆるやかならせん状にどこまでも続いているように見える。表面がざらつくように加工してあるらしく、滑ったりすることはなかった。
「さあ、どうぞ。ここが、このお城の頂上ですわ」
 ミコのペースにあわせて、ゆっくり昇っていた階段は、最後にバルコニにでた。半円形のそんなに広くはない空間だ。
 屋根のないバルコニに立ったとき、ミコが初めに感じたのは風だった。
 髪を揺らして吹き抜けていく、さわやかな風。思わず目を閉じてその風を身体でうけとめる。それから目を開けると一面にすんだ青い空が見えた。ミコの世界では夕方だったのにと少しふしぎに思う。
 次に手すりまで歩いて見下ろすと、ほぼ円形に広がる、真っ白い町並みが目に入った。
 まるで、写真で見たエーゲ海の景色のようだった。ここでは海の代わりに、街のまわりには草原や森が広がっている。
「このお城は、白都の中心なんだよぅ。すごくきれいでしょ。ここは、アタシのお気に入りの場所なんだよう」
「ごらんの通り、町並みが白いので、白都と呼ばれるようになったんですわ。この街では、白は神聖な色とされています」
 ずっと手を握ったまま、ローゼが説明をしてくれた。
 ルビーの言ったとおり、白都の中心にあるのが、このお城で、そのお城の中心にあるのが、先ほどミコがあがってきた【祈りの泉】。泉を挟んで、パールのいた祈りの間と、魔女を封じていた、【永劫の夜】と呼ばれる部屋があるのだそうだ。
「この街は、貿易の中心でもありますから、市場におりれば、色々めずらしいものが見られますよ」
「おいしいものも、いっぱいあるんだよう」
 目の前に広がる、綺麗な景色と、二人の優しい言葉に、ミコは何故か目の前がにじんできた。
 思えば、元の世界……、ミコの現実にいたときは、こんなに優しい人間なんていなかった。もうずっと長い間、笑いかけてくれる人も、手を握ってくれる人も、いなかった。
 クラスメイトには、さげすみと馬鹿にした目をされ、両親は
「良い子」のミコしか見てくれない。教師も助けてなんてくれない。味方も、優しい人も、誰もいなかった。しゃべることすら少なかった。あの世界でミコは単なるモノだった。
 けれど、この世界は違う。
 それが、ミコがチェンジリングだからだというのなら。
 チェンジリングでさえあれば、こんな風に優しくしてもらえるというなら。
 それなら、もう、チェンジリングになってもいいのかもしれない。
 ミコには、世界を救うなんて出来ないだろう。この人達も、パールも、やがてそのことに気が付いて、失望した目ででミコを見るのだろう。いつも、父親がしていたみたいに。
 でも、それまでの短い時間だけでも、誰かが優しくしてくれるなら。ほんの少しでも必要としてくれるなら。望むとおりの、チェンジリングになって良い。
 そう、ミコは思っていた。
 まっすぐに景色を見つめたまま、静かに泣き出したミコの頭を、ローゼがもう片方の手でそっとなでる。伝わる体温が温かい。
 ルビーは、ミコとローゼを、順番に見つめた。
 何を、思ってるんだろう。知らない世界で。ひとりぼっちで。
「だいじょうぶだよう」
 そういうと、ルビーは、ミコの肩めがけて飛びおりた。
 景色を見つめて、声も上げずに泣くミコの顔にもたれかかって、三人は一緒に街をながめる。それだけで、十分だった。それだけで、ミコは、嬉しかったから。
 笑ってくれた。優しくしてくれた。一緒に、いてくれた。
 世界を救う理由には、それだけで十分だった。
 
 
 用意が出来たからと、ローゼに案内された部屋は、とても広かった。十二畳ほどの部屋が、二間つながっている。
 普段フローリングの六畳で過ごしているミコには、大きなベッドルームも、床に敷かれたふかふかした絨毯も、慣れなくて気後れしてしまう。
 色は、薄いクリーム色で統一されていた。
 そしてベッドの上には、何故か、水色のぬいぐるみが置いてある。
「着替えもこちらで用意させていただきました。よろしければ、お手伝いしましょうか?」
 ローゼが、部屋と同じクリームの服を持って立っていた。
 部屋の隅には、大きな姿見と、壁に埋め込まれたタンスのような収納がついていて、そこから出してきたらしい。
「ああぁっ」
 突然、ルビーが悲鳴を上げる。
「ちょっと、なんで、スキーム様がここにいるのよぅ?」
「あら」
 ローゼも、先ほどミコが見つけたぬいぐるみの方を振り返った。
「いけませんよ、スキーム様。レディの部屋に勝手に入ったりしては」
 ぬいぐるみ、だと、ミコが思っていた物が、まばたきをして、小首をかしげた。
 それは、ゲームや漫画でディフォルメされたような、小さな竜だった。水色の鱗に、くりっとした空色の瞳。背中にミコの手の平ほどの小さな羽が生えているが、どう見ても三頭身ほどしかないし、大きさもミコが抱えられそうなくらいだった。
「ぴぎゃ」
 首をかしげたまま、鳴く。
「ほらほら、出ていって下さいな。後で、お遊びになればいいでしょう」
 ローゼの言葉に、不満そうにはなをぷくぷくさせていたが、それでも、小さな羽を動かして、スキームと呼ばれたその竜は部屋から出ていった。
「んもうぅ!
 スキーム様ったら!」
 ミコは、ローゼの開けた扉の向こうに消えいく水色のドラゴンを、ぱちくりとながめていた。
(あのぴよぴよ飛んでいったのが、竜……?)
「あのね、今のが風竜のスキーム様なの。五竜の中の末っ子で、たぶん、のぞくつもりじゃなかったから、許してあげてね」
 ルビーが、声をかける。
「ふふ、きっとチェンジリングを見に来たんですね。気に入られたみたいですよ。あの方が、おとなしく出ていきましたもの」
 ローゼの差し出した服は、だらりとしたワンピース……ローブ、とでもいうのだろうか。ともかく、全体的にゆとりのある服を、腰で、幅広の布で止める形だ。
「自分で出来ますから」
 あわててそう言ったミコだったが、結局着方がわからなくて、ローゼに手伝ってもらうことになった。
「うん。似合うよう、ミコ。黒い髪が、この色に良く映えるね」
 真白は、この国では、祈りの王女であるパールか、何か特別のお祝いがあったときにしか着られないんだと、ローゼが付け加えた。
 だから、白に近い、この色を選んだのだそうだ。
「肩で揃えた髪も、素敵ですよ。白都では、短くするときに髪をまっすぐ揃えることは、あまりありませんから」
「普通の、おかっぱ……、なんですけど」
「オカッパ?」
「うん、この、髪型のこと……」
 ミコが言うと、いいなあ、とルビーがため息をついた。
「アタシの髪は、ふわふわしてるから、ひろがちゃうのよねえ。
 これも好きなんだけど、やっぱりまっすぐにもあこがれるなあ」
 でも、ルビーの赤い髪の方がよっぽど素敵だとミコは思う。この城では、白いウサギの真っ赤な目みたいに、ルビーは目立つ。
 服と一緒に靴も替ええてから、ローゼに髪を少し整えてもらった。服と同じ色の髪留めで飾ってもらったのだ。それからルビーのすすめで、ミコ達は街へ出ることにした。

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written by kurage