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玄関で何度も謝る祭をキスで黙らせて送り出すと、公輝は部屋に戻ってステレオのスイッチを入れた。 とたんに、大音響が部屋を包む。祭がクラッシックや環境音楽をボリュームを落として聴くのとは対照的に、彼はダンスMや流行のポップスを、鼓膜だけでなく体まで震えるような音量でかける。 広い部屋にあまり家具はない。 壁紙は天井まで薄いブルーブラック一色で、フローリングの床にはパイプベッドと黒いステレオにCDホルダ、ラックの上にMac、あとは祭が勉強するのに買ってやった、灰色のミニテーブルがあるだけだ。 収納スペースは全て壁にクローゼットの形で埋め込んである。 元々そう物が多い訳でもない。 ここの家賃はかなり高いし、改装に金もかかった。置いてあるのはちょっとした高級品ばかりである。 ……これらをまだ二十五の彼が、あっさりと揃えられた理由は簡単だった。 女に貢がせているからだ。 高校のとき、寄りつきもしなかった家を出てから、彼はずっとホストをしている。店での売り上げの一部に、貰うプレゼントを売り飛ばした金。 気に入った女の所に転がり込んで生活しているため、この部屋に戻ってくるのは時たま。 祭を拾う前からそうだし、あいつも別に何も言いはしなかった。 気が向いたら帰ってきて祭を抱いて、また気が向いたら出ていく。 「……ちっ、」 それだけの、はずだった。 最近、変わってきているのが自分でもわかる。 公輝はベッドから立ち上がり、青いガラスの灰皿をとって戻り、煙草に火をつけた。 苦虫を噛みつぶした顔で忌々しく告げる。 「この俺が、あんなガキにこだわってるってのかよ…」 実際、今になって、あいつを自分に縛り付けておきたいと考えているのだ。他の男なんかに触らせたくないと思った自分に愕然としたりした。 お気に入りではあった。 彼は、自分の物と決めた物は結構大切にする。 転がっていた薄汚いガキを酔った勢いで拾ってきたとき、彼はそれを自分の物と決めた。 干渉されたくなくて女に上がり込まれることはおろか、友人すら寄せ付けなかったこの部屋だが、祭が居るのは不思議と気にならなかった。 はああ、と煙と一緒に溜息を付き、公輝は床を蹴飛ばしたあと、煙草を銜えたまま、ベッドに倒れ込む。 七年前……、彼が祭を見つけたとき、彼女は衰弱して、まともに動けない有様だった。 怯えて嫌がる彼女を無理矢理ひっつかんで部屋に放り出して、とりあえず飯をやって、 「あれでやっと、ちょっとなついたんだよな……」 それまでは、全てを怖がっていた。 風呂で洗おうと服を剥ぎ取ったときは、少々びっくりした。身体中、あらゆる場所に付いた、痣や切り傷。擦り傷。 何度か同じ様な人間を見たことがあった彼には、間違えようもない。 親か、誰かに虐待を受けていたんだろう。まあ、そんなことは彼の周りでは、珍しいことじゃない。 そして、丸五日ほど死んだように眠った彼女の口から、たどたどしく語られた過去は、なかなかのものだった。 五歳で父親に死なれ(この父親もろくなものではなかったようだったが)、遺産目当ての親戚に引き取られたはいいが、まともに飯も喰わせて貰えない中、家事一切を押しつけられ、殴られながら五年間。 物置で生活してたっつーのは行き過ぎだが、それより驚いたのは、こんな小汚ねえガキに、男の相手をさせていたことだった。 (世の中には、物好きもいるもんだな) というのがそのときの俺の感想。ま、二年たたねえうちに俺も物好きの仲間入りをすることになるんだけどな。 (しょーがねえよな、向こうから誘ったんだし) あいつが、人間じゃないことも、人を殺したことも聞いた。別に興味もねえし、何とも思わなかった。 ただ、むやみに他人に謝るのは気に障ったからやめさせた。(減らさせたって言った方が正確か。未だに直りゃしねえ) 光輝は天井に向かって紫の煙を吐き出して、眉間にしわを寄せる。 どうやらまた、煙草の量が増えそうだった。 |