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学校が終わって、祭は早足で家へと急ぐ。 今日は、『コウキ』がいるから。 白いマンションの小綺麗な玄関。オートロックを手早く解除して、エレベータに飛び乗って最上階へ。 と、言ってもたかだか五階なのだけれど。 祭の部屋は一番奥だ。 そっと鍵を開けて中に滑り込むと、ただっぴろいリビンクの隅のベッドでコウキが眠っていた。 床には服や物が落ちているが、元々広い部屋なのでそんなに気にならない。本来は三部屋だったものを壁を無くしたのだと、前に彼が言っていた。 祭は、鞄を置いて、しわにならないよう、脱ぎ捨てた制服をソファの背に乗せると、下着だけでコウキの隣に潜り込む。 エアコンを効かせた部屋の中で身体に染みわたる暖かさが心地良い。 コウキの寝顔を見るのが好きだ、と祭は思う。 整った顔、長いまつげ。 普段の自信に満ちた顔が、意外に幼くなるところも。 脱色してある髪も、大きな手も、何もかも全部。 そんなことは寝てないときでも同じなのだけれど、やっぱり、寝顔が好きだと思う。……他人の前で決してこんな風に熟睡しないことを知っているせいかもしれない。 隣に丸まる慣れた気配に、公輝は目も開けずに、手探りでその身体を抱き寄せた。 まだ眠っている頭で腕の中すり寄ってくる祭にキスを落とすと、訊く。 「……今日は、仕事あんのか……?」 しばらくの間の後、唇を噛んで祭が答える。 「……、ごめんなさい、」 (コウキが、居てくれるのに、) 「ばあっか、んな声出してんじゃねえよ」 眠い目を無理矢理開いて、わしわしと祭の頭をなでると、公輝は体を起こした。 そうしないと、また眠りそうだった。 薄いダークブルーの壁にもたれて再び祭を引き寄せる。 「仕事、どっちだ? 店の方か?」 「ううん、きょうは、……」 国後さんの、と言いかけて、慌てて飲み込む。彼の前で、他の男性の名前を出したくない。 「…厚生省のほう」 「そっか。なら夜には帰ってくんだろ? まだ居てやるから、行って来いよ」 「……うん、」 いつもながら素直すぎる祭の返事に公輝は苦笑した。だがまあ、これでいい。祭は俺の所有物だ。 俺が死ねといったら喜んで死ぬんだろう。そういうやつだ。生きることなんか、とっくに諦めている、ガキ。 捨てられないよう必死でしがみつく子供のように、ぴったりと身体を寄せてくる祭を見下ろして、再び独りごちる。 (俺は、絶対に死ねなんて言わねえから、良いんだ……) 黙ってしまったコウキに、何か怒らせてしまったんだろうかと祭は恐る恐る顔を上げた。 そして、その表情に決して怒っているのではないことを確認すると、ほっとして、やっとすがりついていた手を離した。 笑う。彼にしか見せない笑顔で。猫のように、本当に、幸福そうに。 コウキの隣にいられること、コウキがいること、コウキが必要としてくれること。それだけが、祭の全て……。 あの日差し伸べてくれた手を、覚えてる。ずっと、ずっと覚えてる。 …………。 |