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 コラガカイナニイダクモノ  
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+ 3:偽装的日常 +



「まーつり、おはようっ」
 通学の途中に親友の姿を見つけ、さつきは上機嫌で声を掛けた。
「おはよう、さつき」
 優しく笑って祭は答える。
 色素の薄い髪に、金色の瞳。顔立ちが日本人なだけに違和感を感じるのだが、どことなく彼女には似合っている。

 いつも笑っていて、ものすごく凄く他人に気を遣う彼女は、さつきだけではなく、誰にでも人気があった。
「祭、今日は来れそう? 部活のほう」
「えっと、ごめんね。今日もちょっと、仕事があるから、」


 とてとてと並んで歩きながら、すまなそうに祭が言った。
「別に謝らなくていいってば。バイトあるならしかたないしさ」
「最近あまり出られないから、なるべく出たいんだけれど……」    
「あはは、内田なんか、祭いないと露骨にがっかりしてるよ」
 言われて、ちょっと困った顔で笑いながら続ける。
「そんなことは無いと思うけど、」
「あるって。まあ、内田はどうでもいいから、あんまり労働しすぎて身体壊さないようにね」
 ぴしっと指を突きつけて言う、さつき。
「うん、ありがとう」



 友人の気遣いが、祭には本当に嬉しかった。
 秘密を抱えた自分を受け入れてくれることが。でも、やはり彼女に全てを話すことは出来なかった。
 言ったら、間違いなく自分は嫌悪されるだろう。
 識っている、。仕方がない。
 (、私は、化け物だから、…)


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 部活を終え、さつきは何とも無しにあの土手を歩いていた。
 人気のない、静かな道。
 薬指のリングを見ながら、風に吹かれてのんびりと思う。
(いつ、話そう……。みんなに)
 やっぱり祭に話してからかな。一番、良い相談相手になりそうだし。
 それに彼女なら、『裏切られる』事は絶対にない。と思う。

 ……さすがに、誰にでも口を滑らせて、一生を研究所で過ごすのはごめんだ。
 日本人にありがちな村八分にされるのも勘弁願いたい。

 一応、という感じで舗装のなされている、土の覗く道路を、向こうから一台の車が走ってきた。
 紺に近い銀藍で流線型のスポーツカーは、驚くほど静かに近づいてくると、さつきの目の前で止まる。


(?)
 ガラスが黒いのを見て、さすがにびっくりする。
 半歩ほど引きかけたところに、運転席の窓から顔を覗かせたのは、困った顔をした一人の男。
 二十五、六だろうか。
 整った、としか言いようのない中性的な顔立ちに、いかにも高価そうなグレーのスーツを着ている。
「その、すまないが、ちょっとお尋ねしたい」
「……ハイ、」
こんな人間が一体自分に何の用があるっていうんだろう。
「落とし物を、指輪を、探しているんだ」


………一瞬、引きつった表情は、ばれなかっただろうか。
「たぶん、このあたりで落としたと思うんだが、大切なものらしくてな、」
 困ったように言う彼に、さつきはにっこりと、
「ごめんなさい。私、毎日通ってますけど、見かけたこと、無いです」
 鞄を持った手は下げているから、身を乗り出さなければ車内からは見えない。
 自分の態度に拍手でもしたいくらいだった。
「そうか、ありがとう」

 その答えにあっさりと頷くと、男は胸ポケットから名刺を取り出して
「もしそれらしいものがあったら、連絡をくれればありがたい」
と、さつきに渡す。

 それを右手で受け取り
「はい、お役に立てなくてごめんなさい…」
すまなそうに言う。
「いや、気にしないでくれ。ありがとう」
 さつきの言葉に男は笑うと、窓を閉めて車は行ってしまった。


 手を振りながら見送って、さつきは初めて、自分が巧く呼吸をしていないことに気が付いた。
 軽く頭をふり、深呼吸をして、ことさら何事もなかったように、ゆっくり歩き出す。

 受け取った紙片に目を落として、さらに心音が跳ね上がった。
(どうしよう、……)
 『凪探偵事務所』
(どうしよう、どう、しよう……)
 探偵? まさかこんなことになるなんて、思ってなかった。
 バレたら、指輪は、私は、一体どうなるんだろう。


 拾ったときには判らなかったけど、あんな人が探しているんだから、きっと、価値があるモノなんだろう。
 警察に捕まったりするんだろうか。それとも、もっと大事になるんだろうか。

(このまま指輪を投げ捨てておけば、何も、起こらずに済むかもしれない……)
 頭の中にわき上がってくる未来図は暗澹としたものばかりで。
 けれど、どうしてもそうできないこと、手に入れた「特別」を手放せないことに気付き、急に全てが怖くなって、さつきは走り出した。


 どうすればいいのか、何がどうなっているのか、なにもかも理解らない。
 ……ただ一つだけはっきりしたこと、
(あのひとは、敵だ……)
それだけだ。




 一目散に走っていくさつきを見送って、アキラは溜息を付いた。
 角を一つ曲がって、彼女が見えるようこっそり車を止めておいたのだ。
「あーあ、かっわいそー。アニキがおどすから」
「やかましい」
 助手席から声を掛けてきた不遜な弟を殴り飛ばして、手を伸ばしエンジンを掛けた。

前を向いたまま続ける。
「……で、間違いないんだな、」
「ああ。彼女だな。しかもカンッペキ発動(うご)いてるぜ」
 弟の返事にもう一つ溜息を付くと、狭い後部座席に、大きな体を無理矢理詰め込んでいる男に、訊く。
 でかい男が二人も乗るだけで、車が、狭い。まったく、なんでどいつもこいつも、無駄に成長したのか…。
「大河、覚えたな?」

「はいっ、ちゃんと覚えましたぁ」
 底抜けに脳天気そうに言う大河。
 アキラは頭が痛くなってきた。そもそも女子高生に声を掛けるなんて事を自分がやったのがいけなかった。
 愛想がないのは重々承知している。きっと、無用の誤解を生んでしまっただろうに。
「……くそっ、」



 にやにやとこちらを見ている弟に気付かれないよう、小さく毒づくと、ハンドルを切って車を急発進させる。
「……このツケは払って貰うぞ、国後」
 アクセルを踏み込みながら、アキラは半ば八つ当たり気味に、そうつぶやいた。
 

 

 

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