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それは大学に入った、初めての夏休み。
を、どう過ごそうかと考えていたときだった。
階下で、数回の呼び出し音の後、母親が自分を呼ぶ声がした。
「祐ちゃん、電話よ〜」
いい年をして息子にちゃんをつける精神はどうかと思う、が、言っても無駄なので、そのまま部屋を出、電話機にむかった。
「もしもし、」
受話器の向こうから聞こえる、低い男の声。
「祐一君ですか?」
「…はい?」
篭ったような男の声に、一瞬ありとあらゆる状況が脳内を駆け巡った(成人向けサイトの取立てとか)(みてないけど)が、電話の主は、
「覚えてませんかね? あなたの叔父なんですが、」
確認するかのように言った。
…そういえば、そんな人がいたような気がする。
「ああ、ええと、お久しぶりです、」
あんまり親しくない、顔も思い出せないような人だけど。
「お久しぶりです。…突然ですが、夏休みうちの店でバイトしませんか?」
「…はい?」
何のことはない、どうやら「叔父」を名乗る人は、両親に先に承諾を得ていたらしい。
どうせ予定のなかった夏休み一週間、泊りがけで、アクセサリー屋でバイト。
社会勉強だから行ってこい行ってこいと、不気味なほどの両親の笑顔に見送られ、叔父の経営する店へと向かった。
金もたまるし食費も浮くし、暇もつぶせるし、と一石三鳥で、バスで駅前に向かう。
少しだけ、まだ見ない世界に、不安を抱きながら。
バスは、昼前に目的のバス停についた。
店は、そこからさらに数分歩いたところの通り沿いにある。
一週間分の泊まり荷物を抱えながら歩いていたが、目的の店は意外とわかりやすかった。
古ぼけたような色のドア。ゆったりした店構え。
アンティークアクセサリーの看板がなければ、喫茶店か居心地のいいバーか何かと間違えてしまいそうだ。
なんだか、充実したバイトができそうだと期待に胸を膨らませてドアを開けると、
チリン、とドアについた鈴が気持ちのいい音を立てる。
「…?」
営業中なのかよくわからない、やや薄暗い店内には、人が一人いるようだ。
女性。
レジ横のカウンターを拭いていて、その度にゆれる短いスカート(メイド服?)、眩しい生足。
「…??」
そっとドアを閉める。
店を間違えただろうか。
そう思ってもう一度看板を見上げたとたん、勢いよくドアは内側から開いた。
「あら、いらっしゃいませ〜。祐一様ですね?」
「あ…、はい、」
…様?
疑問を口にする間もなく威勢良く鳴り響くドアの鈴、なんだか押しの強そうなその女の人は、荷物ごと俺を店内に招き入れた。
歩くたびに元気よくゆれる、金のポニーテール。
「旦那様ー、祐一様がいらっしゃいましたよー」
カウンターの奥、ドアでつながった向こうへ呼びかける。
店の奥は、大方、家とかになってるんだろう。
一息ついて周りを見回すと、さっきは気づかなかったが、店内には数々の骨董品めいたアクセサリーが並べて売られていた。
なんだか桁を間違えたような値札のついたものから、よく見るパワーストーンを売っているコーナーもある。
…じゃあなんでこの人はメイド服を着ているんだろう。趣味だろうか。
ややあって、何かを引きずるような音を立てながら、店主が現れた。
人がすっぽり入りそうなほど馬鹿でかいトランクを提げている。
そしてなぜか、黒いロングコート。
七月も終わりなのに、何故だか。
海外にでも行く気だろうか。
「あぁ、君が祐一君ですね、」
店主は気づいたように言うと、握手を求めて手を差し出した。
「えっと…、コンニチワ」
初めましてというのもなんだか変な気がして、ぼそりと挨拶を交わすと一瞬握手する。
電話で聞いた低い声。
想像していたよりも老けている感はなく、かといって若さがみなぎっているわけでもない。
一言で言ってしまえば、素性不明な感じ。
「あらあら、旦那様、襟が曲がってますわよ、」
一瞬の無言を打ち破り、先ほどの女性が店主に歩み寄り、襟を直している。
なんとなく、羨ましい構図。
「では、一週間ほど旅行に行ってきますので。店の仕事はこちらにいるサツキさんに教えてもらってください、」
「よろしくお願いしまぁす、」
金髪メイド服な彼女が、こちらを向いてぺこりとお辞儀する。
つられてお辞儀する、自分。
「それから、宿泊は奥の部屋を使ってください。それも、サツキさんよろしく」
言って、店主はごそごそとポケットを探る。
そうして取り出したものを、渡された。
可愛らしい黒いウサギのキーホルダーがついた、かなり重い鍵束。
「鍵の管理は、あなたにお任せします。どの部屋も自由に使っていただいても構いませんが、」
店主は一瞬言葉を句切り、少しだけ、声のトーンを落とした。
「金色の鍵だけは、決して使わないようにしてください」
思わず、手の中の鍵束を見る。
金色の鍵、この色あせたような金の鍵だろうか。
一緒に十数個連なる他の鍵とは違い、一つだけアンティークな形をしている。
「それ以外の指示は、サツキさんに聞いてください。後は何か…」
「旦那様、飛行機の時間が、」
「あぁ、そうですね…、では、」
サツキさんの言葉に、店主はポケットから取り出した懐中時計を見やるとどっこいしょと傍らにおいたトランクを持ち上げ、その場を後にする。
チリン、とドアの鈴が鳴り、扉が閉まった。
「では、祐一様に、先にお部屋をご案内しますね、」
彼女は店主が出て行った後のドアのプレートを「クローズ」に変えると、振り返りにっこり笑った。
「…でも、店締めてきちゃってよかったんですか?」
意外と広い奥の敷地、廊下を先に歩くサツキさんに訊く。
今までオープンしてたんだから、休業日ってことはないだろう。
「あら、いいんですのよ。どうせこの時間はほとんど客もきませんし、」
「…そうすか、」
肩にかけた旅行荷物を持ち直し、後に続く。
廊下に面した部屋は、意外なほど多く、外から見たら一体どれだけの敷地になるのか、見当もつかない。
鍵束が重くなるのも、なんだか理解できるような。
…じゃあ、あの金の鍵の部屋は、どこになるんだろう。
「こちらが祐一様の部屋です、」
とある部屋の前で、サツキさんが立ち止まった。
ドアを開けて示してくれたのを、伺って見る。
こじんまりとしたその部屋の中には、ベッドとクローゼットが一つずつ。
なんだか居心地の良さそうな部屋にほっとして、肩に食い込んだ荷物をやっと下ろした。
「じゃあ、他のお部屋案内しますわね」
「あ、はい、いきます」
荷物の肩ひもで圧迫され、凝った肩を揉みほぐしながら彼女の後を追った。
「こっちが食堂、ここがトイレ、それから、そちらがお風呂です、」
「はぁ…」
長い廊下が続く家。
サツキさんはプレートが付いているのに、いちいち扉を開けながら案内してくれる。
どの部屋も普通の家にあるような生活感に満ちた設備だ。
…でもどの部屋も鍵なんてかかっていない。
この鍵束はどこに使うんだろうか。
「えーっと、こっちの部屋とかはなんなんですか?」
俺は示されなかった多くの部屋を聞いた。
どれもドアの作りが同じでわかりにくい。
食堂などにかかっているドアプレートがそれらの部屋にはかかっていなかった。
「あぁ、そちらは客間です。祐一様のお部屋と同じですよ。多少大きさは違いますけど」
どんどん移動しながらサツキさんが説明してくれる。
「…ずいぶん客間が多いんですね」
「たくさんお客様がいらっしゃることがありますから」
「そうですか」
雑貨屋なのに、客がたくさん宿泊なんてことあるんだろうか。
完全な店主のプライベートだろうか。
「さて祐一様、」
ぼーっと考えながらついて行くと、ある部屋でサツキさんは歩みを止めた。
屋敷の一番奥より一つ前の部屋。
そこだけ何故かくすんだ鉄の扉。
「このお部屋だけは絶対に開けないで下さいね。絶対ですよ、」
「は、はぁ…」
その妙な念の押し具合が気になって、その部屋をちらりと見る。
手の中の鍵束が、存在を主張する。
「それさえ守って下さったら、どのお部屋を使って下さっても結構ですから」
「そうすか…」
どこかで聞いた台詞のような。
結局そこで部屋の案内は終わり、サツキさんと俺は元の部屋へと戻った。
「そういえば、なんで俺、様付けで呼ばれてるんですか?」
部屋の向こう、ドアを閉めようとしていたサツキさんを振り返る。
彼女は、戸の隙間から顔だけ出して、にっこりと微笑んだ。
「だって祐一様は、旦那様の大切なし…、いえいえ、甥子さんなんですもの。
荷物の整理が終わられましたら、仕事の説明しますので、店の方にきて下さいねv」
言って、サツキさんは綺麗なウィンクをして、扉の向こうに消えた。
なんなんだ、一体。
し…、ってなんなんだろう。
親友…、だった覚えはないし。
子孫ていうのは、孫とかのことだよなぁ。
じゃあ使用人…だったら、様付けなくても良いか。
いったい何なのか。
しかも大切な。
まさか…、シーラカンス? いや支配者? シークワーサー? シベリア半島?
サツキさんが、レジ打ちの説明をしてくれている間、俺は悶々と考えていた。
相変わらず、彼女の『様付け』は変わらないし、その理由はわからない。
それもまたアンティークな形の、レジのボタンを押すサツキさんの綺麗な指の形だけが、意識の向こうで踊っている。
「まぁ、あんまり難しく考えられませんでも、あんまりお客様来ませんから」
それはそれ、これはこれ、といった表情で、サツキさんが笑う。
「心配なさらなくても、日給はちゃんと出ますわよ。ただ、いらっしゃったお客様には、ちゃんと買って頂きませんと困りますけれど、」
不意にサツキさんが距離を詰め、薄いTシャツの俺の胸に触れた。
驚いて、一歩下がると、その分寄ってくる。猫のような瞳が下から見上げてくる。
「たくさんお勧めして。あの手この手を使って。時には不安をあおったりして」
「そ、そういうのって、悪徳商法って言いません?」
そのままの状態で、数歩下がり、とうとう背中が壁に押し当たる。
勢いで、身体同士が密着した。
硬直する俺。
「人聞きが悪いですわ、祐一様、」
指をつつう、と動かし、微笑むサツキさん。
見上げる眼が、何故か鮮やかな緑色に見え、一瞬常識世界が揺れる。
ドアの鈴が、ちりんと鳴った。
「いらっしゃいませ〜v」
瞬間で、離れたサツキさん。
ドアを開けた、二人の若い女性に、丁寧なお辞儀をしている。
思わずその場にへたり込む。
心臓が、バクバクと存在を主張している。
乱れた息を整えながら、ちらりとサツキさんを見上げると、こっちを見て小さく笑った。
…絶対馬鹿にされている。
お客さん達が向こうを向いている間、立ち上がってズボンのほこりを払った。
素知らぬ顔をしてレジの前に立つと、会計しに来るのを待つ。
ぼーっと見ていると、サツキさんにすすめられ、二人それぞれ色の付いた石を手に、レジに来た。
「あ、ありがとうございます〜」
笑顔を浮かべながら、レジ打ち、ラッピングをする。
カシャン、カシャンとタイプライターのような古いレジ。
なんとか問題なく接客を終えると、ちりん、とドアが閉まるのを見送った。
「ふーっ、緊張したー、」
初めての接客に、思わずそう漏らすと、
「祐一様、もっと穏やかな笑顔が良いですわよ」
ダメ出しされた。
「うぅ、努力します」
「それから、次からセールスの練習もしてもらいますわね」
「うぅ…」
その日は結局、それ以上は客が来ず、簡単な片づけをして俺は仕事を上がった。
個人営業の雑貨屋だと結構営業時間が短いようで、コンビニに慣れている身にしては、早く終わりすぎな気がした。
…まぁ、日給なんだし、それに文句はないし、深く考えないことにしよう。
適当に荷物を片づけながらごろごろしていると、まもなくドアがノックされた。
「祐一様、お夕食出来ましたよ。食べましょう、」
ドアが開き、サツキさんが顔をのぞかせる。
三食賄い付き、宿泊費無料。
こんな良いバイトがあるだろうか。
いや、ここにあるけどさ。
そんなことをもにもに考えながら、颯爽と歩くサツキさんの後を追う。
どうぞ〜とダイニングのドアが開かれると、ぷぅんといい匂いが鼻をくすぐった。
「わ、美味そうですね、」
食卓に並んだ料理の数々を見て、俺は思わず歓声を上げた。
実家で、母親が作る料理とは比べ物にならない…、ちなみにメニューは、煮込みハンバーグとサーモンサラダ、
ライスとそれから、ワインとグラスが置いてあった。
それから、他にもつまみになりそうな物が何品か。
「さ、食べましょう食べましょう」
思わず動きを止めていた俺の背を押し、サツキさんが促す。
四人がけのこぢんまりとしたテーブル、向かい合わせに座る。
いただきますをすると、耐えきれず料理に手をつけた。
「…うまひ」
言葉に、ワインを注いでくれているサツキさんが微笑む。
「お代わりもありますから、たくさんどうぞ」
「…はひ」
妙に素直な自分。
料理がおいしくて、ワインもおいしくて、そのうえデザートまで出てきた。
料理に感動していて、何をしゃべっていたか、余りよく覚えていないくらいに。
その後、いつの間にか空いていたワインに酔ってふらふらしながらも、なんとかシャワーを浴び、
(一緒に入るかとサツキさんに誘われたが、断った)(もったいなかっただろうか)パジャマになって寝慣れないベッドに寝ころんだ。
なんだか至れり尽くせりで、旅館気分になってしまう。
いやいや、バイトだから気を引き締めていかないと。
…などと考えていたら、いつの間にか寝てしまったんだろう。
冷房が効きっぱなしで肌寒く、夜中に目を覚ました。
電気もつけっぱなしで、寝ぼけたままスイッチを探したが、いつもの場所にない。
…そうか、人の家だった。
起きたついでに、その後の快適な睡眠のため、トイレに行っておこうと考えた。
可愛い、黒ウサギの付いた、鍵束を引っ提げて部屋を出る。
まさかトイレに鍵はかかっていないだろうけれど。
どことなくひんやりした廊下を、履き慣れないスリッパでぺったかぺったか歩く。
用を済ませて帰ろうとすると、どこからか、声が聞こえた、ような気がした。
夏の夜の生暖かい空気の中、背筋がぞくりとする。
なんだかこのまま部屋に帰っても寝られなさそうな気がして、その声の出所を確かめてみようとする(すごくイヤだけど)
何もないならそれで良い。気のせいならそのまま帰って寝よう…。
そんな期待にもかかわらず、再び細く声がした。例の、鉄の扉の部屋。
ものすごく嫌な気がしながら、足音を忍ばせて、その部屋の前まで行く。一番奥の一つ手前。
鍵がかかっているだろう、開かなければそのまま帰ろう…。人んちだし。
思いながら、鍵束の中、金色の鍵を選んで、差し込んだ。それが一番、この部屋にふさわしい気がしたから。
…幸か不幸か、鍵は抵抗無く奥まで差し込まれてしまった。
そのまま、かちゃりとひねる。
鉄の扉は、そのものの重さがまるで無いかのように、自然に開いた。
また、あの声がする。猫が鳴いているような。
心臓がバクバクするのを押さえながら(あぁ、このまま戸を閉めて帰ってしまおうか)そっとのぞき込むと、
明かりのついていない室内、奥に熱気に満ちた人の気配がした。
細い声は今や紛れもない泣き声になって、俺を呼んでいる。
壁を探って、そこに電気のスイッチを見つけられないまま、俺はふらふらと部屋の奥へ進んだ。
月明かりがあった。
四角く浮き出されたベッドの上、小さな女の子が、泣きながら俺を見つめていた。
泣いている。その両手はベッドの枠に麻ひもで縛られている。
申し訳程度に肌を覆っているキャミソール型のワンピース。
髪が銀に見えるのは、月の光のせいだ、きっと。
「うああああん、」
その子は泣いている。大きな目から涙をぼろぼろとこぼして。
泣きながら、俺に助けてくれと訴えている。
「よしよし、今ほどいてやるからな、」
そっと囁くように言うと、縄をほどきにかかる。
一体誰がこんなひどいことをするのだろう。
縄でこすられた細い手首は、真っ赤になってしまっている。
涙に濡れていても、愛らしい顔。透き通る肌。
両腕が解放されると、その子はおびえているのか、俺の身体にひっしりとしがみついてきた。
抱きかえしてやると見た目以上に小さな身体。
パジャマを通して、高い体温が伝わってくる。
「もう泣かなくて大丈夫だから、」
おびえたように泣きじゃくる少女をあやすように、その髪をなでる。
髪をかき上げた額にそっとキスをすると、その子はまだ涙のたまった瞳で俺を見上げた。
「な、」
優しく微笑んでやる。
少女は、探るように俺の顔を見上げていたが、やがて必死でしがみついていた手を離し、両手でぐりぐりと涙をぬぐった。
そして俺に触れ直す。
「は…?」
強い刺激に、一瞬思考が飛びかける。
ヒザの上で抱きかかえられながら、少女は俺の股間に手を這わせていた。
小さな手が、ためらいもなく刺激を加えてくる。
テクニシャン。
特に役にも立たない単語がぐるぐると俺の頭の中で回る。
「ちょ、ちょっと待って…」
突き放すには気の引ける快感が背筋を襲う。
いや、こんな小さな子とするのは問題がありすぎる。
いやいや、そうではなくて。
現実の認識が出来ないまま、何の対処も出来ずに、俺はいつの間にかベッドに押し倒されていた。
ろくに抵抗するまもなく、パジャマのズボンからいきり立ったものが引きずり出される。
彼女はそれを嬉しそうに見ると、俺をまたいだ。
薄いワンピースのすそをつまむと、たくし上げる。
その下には何も付けておらず、艶やかに微笑むとそのまま俺の上に腰を落とした。
少女の唇から甘い声が漏れる。
「あん…っ」
魅了されているように見ていたが、少女の中に入る強い快感で意識が持っていかれた。
必死で、そのまま達するのだけはこらえる。
が少女は、歯を食いしばっている俺を気にすることなく、上で腰を動かし始めた。
淫ら、としか言いようのない腰使いで、夢中で快楽をむさぼっている。
「くぅ…っ」
堪えても、息つく間もない快楽に、次第に頭が真っ白になる。
少女の甘い声。
月の光に揺れる銀の髪。
腰を押しつけ、少女がひときわ大きく快楽の声を上げたとき、
その腰をかき抱いて俺は思わず欲望の凝りを吐きだし、そのまま、
不覚にも、俺は意識を失った。
…かすかな衣擦れの音がする。
ここはどこだっけ。
そんな、一寸前にも考えたような気がして、俺は重たいまぶたを開けた。
それに気が付き、布団をかけ直してくれていたサツキさんが、優しく微笑んだ。
「あら、おはようございます、祐一様」
相変わらず彼女はメイド服で、揺れる金のポニーテールが少し、まぶしい。
「あ…、俺、一体…?」
ベッドに横たわったまま、あげる腕がひどく重たい。
まるで、長く泳いだ後のように。
「あら、覚えていらっしゃらないんですか? 祐一様ったら、気を失って倒れてらしたんですよ」
じわじわと混乱する俺に、変わらずサツキさんは優しく目を細めて言う。
倒れてた、じゃあ『あれ』は夢だったんだろうか。
必死で思い出そうとしている俺に、彼女は心痛そうにまゆをひそめて言った。
「もう、三日も起きられないから、心配しました」
「は…?」
言葉に、俺はだるさも忘れて跳ね起きた。
三日…? じゃあその間バイトは?
考えが、しかし足元で丸まっているものに釘付けになって、止まる。
あの少女が、俺に身を寄せて、気持ちよさげな寝息を立てていた。
長い銀の髪が、その背を包むように広がっている。
「でも、初めてサキュバスに吸い取られて、三日で回復するなんてさすが祐一様」
フリーズしている俺の肩に身を寄せ、耳元でサツキさんがささやく。
「さ、サキュバスっすか…」
目が釘付けのまま、漏れるように呟いていた。
「そう、…ご存じないんですか?」
「いや、そういうわけでわ」
ないけれどサキュバスってボインのお姉ちゃんじゃないのか?
じゃなくてこれは現実だから性犯罪?
いやいやいや…、。
嫌な汗がにじんできても、一向に思考はまとまらない。
果たしてまとまりようがあるのだろうか。
ともかく、俺の夏休みは、まだはじまったばかりだった。
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written by kahuuin / the original author is kurage
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